変性性腰仙椎狭窄症     (Degenerative Lumbosacral Stenosis)

[背景]
 変性性腰仙椎狭窄症(DLSS)は、一般的に広く馬尾症候群として認識されている疾患群とほぼ同じ意味をもつ病気です。馬尾症候群とは、脊髄終末部である馬尾神経および神経根が圧迫されることにより臨床徴候を示す疾患群であり、脊髄終末部の神経根の外観は、まるで馬の尻尾のように、細い神経根の束が複数並走して見えることから、このような病名が名付けられました。近年、馬尾症候群の病態の多くに腰仙関節(第7腰椎-仙椎関節)の不安定症に伴う病態が関わっていることが多いことがわかり、変性性腰仙椎狭窄症と呼ばれるようになってきました。

 変性性腰仙椎狭窄症は高齢の大型犬における発症が多いと認識されておりますが、当施設には、若齢の大型犬やアジリティーを行うボーダーコリー、更には猫での発症も多くみられております。

馬尾症候群の由来となった馬の尻尾の外観

[病態]
 腰仙関節は脊柱の中で最も負荷がかかり、また、繰り返し多方向の力がかかる関節であるとされているため、その靭帯や椎間板には負担がかかりやすく、靭帯の肥厚や椎間板の変性が進行しやすいと考えられております。それは腰仙関節の更なる不安定化を引き起こし結果的に変性性変化の進行を引き起こし病態の悪化につながると考えられております。
 また、先天性の椎骨形成異常(移行脊椎)がみられることも多く、腰仙関節の不整合性より、馬尾神経および神経根の圧迫を引き起こすこともあります。

[症状]
①腰仙部の痛み、尾の動きが悪い
②階段の昇り降り、お座りが上手く出来ない
③歩行時のふらつき(後肢のナックリング)
④尿漏れ、便失禁
⑤起立困難

右後肢のナックリング
 

[診断]
 身体検査では腰仙関節の圧痛(ロードーシス試験)、尾を持ち上げることによる疼痛(テールリフト試験)が多くの症例でみられます。
神経学的検査では膝蓋腱反射の偽牲亢進、姿勢反応の遅延~消失、引っ込め反射の消失、会陰反射の低下または消失が認められることがあります。
X線検査では、第7腰椎-仙椎間に変形性脊椎症や認められることがあります。

第7腰椎-仙椎腹側の変形性脊椎症と仙椎の沈下を伴う症例のX線検査

 確定診断にはMRI検査が非常に有効です。MRI検査では伸展・屈曲位の撮影を行うことにより、動的な病変を診断することが可能です。また、CT検査を併せて行うことで、術前の手術計画に有効なうえ、MRI検査だけではわかりづらい椎間孔の狭窄などの詳細な病態の評価も可能となります。

左:DLSSのMRI写真 右:CT検査における椎間孔狭窄


左:MRI検査伸展撮影の横断像 右:MRI検査屈曲撮影の横断像
屈曲撮影では、伸展撮影で狭窄していた神経根領域が拡大し、神経根の圧迫が改善されている
 

[治療法]
内科療法:
 臨床症状が腰仙部痛だけで初発の場合は2?3ヵ月の運動制限、消炎鎮痛剤を投与し、経過観察をします。
また、慢性経過の高齢動物や、持病があり全身麻酔が困難な症例も内科療法の適応となります。

外科療法:
 内科療法で改善がみられない場合や運動神経、感覚神経の障害がある場合は外科手術が選択されます。なお、長期間尿失禁が認められた症例では外科的減圧手術を行っても改善しないか、改善するまでに時間がかかる傾向があります。
 外科手術は減圧術と固定術に大別され、症例によって最も適切な術式を選択します。減圧術は背側椎弓切除術、椎間板部分切除術、椎間孔拡大術、脊椎関節突起切除術が挙げられ、固定術では骨セメントやスクリューを用いた腰仙関節牽引固定術が行われます。

左:経関節固定術 右:経関節固定術と支持固定術の併用